呑気な弥次郎兵衛 西条を離れるにつれ重責を果たした如く、楽しき想い出に耽り始めるので御座る。駕籠の足も軽やかに夕5時前にには来島のインターに到着致し候。夢中にて檄を飛ばし自ら漕ぎしこの海峡、64年昔と変わらぬ悠然たる潮の流れ、異なるはビルの如き橋梁が手足を海にあるは空に途轍もなく伸ばし居る様にて候。シマナミに入り渡り始めるや遥か東の彼方に四阪島か?あの時精錬所の灯がと思う間もなく大橋を一飛び致し候。目まぐるしく替わる橋毎に海の色が異なり島々が背後に飛び去る様は正に走馬灯を見る思いにて候。祈りを捧げし大三島、西日光の生口島、海賊・造船の因島、青春の一時を過ごし来島横断を果たしたこの海この島々、共に汗せし後輩たちは?思い半ばにて早尾道に到着致し候。帆走にては半日或るは一日要したこの海を、一時にての早駕籠にはまっこと時代の進歩に驚かされる弥次で御座った。
尾道泊の翌朝は旧街道にて駕籠を走らせ思い出の地を訪ねんと図るも、生憎の雨模様にて儘ならず、厳島は見えず佐久間艇長の碑も探し得ず、僅かに錦帯橋のみ訪れ申した。3号時代一度、2号岩国で自転車にて幾度か訪れしこの橋。確か台風の後の洪水被害にて建て替えられしと聞くも、威容其の侭にて雨の中静かに昔日を語り居り候。
想い出は美しく候。昔日を偲び今日の喜びと明日えの誓いを胸に秘め、小雨降る西国路をいざ福岡え帰らんと駕籠を進め候。