横砲生活にも慣れた初夏の真っ昼間、警戒警報に続いて空襲警報が出ました。各砲台は戦闘配置に就きました。対空戦闘のラッパも響きました。総指揮官は砲術科長小川五郎太中佐(54期)、砲台毎の射撃指揮官・見張指揮官は錚々たる教官陣、射手は高等科袖章のベテラン兵曹群、滅多に見られぬ豪華布陣です。戦闘員以外は防空壕へ、但し候補生は全員砲台下の見学位置。B29の高度3,000米、唯1機。海軍が誇る超10糎高角砲が火を噴きました。目標とは離れた処に次々と炸裂しました。戦闘はすぐに終りました。彼は一発の爆弾も落すことなく、退避して行きました。兵学校入試数学の「アポロニウスの円」は所詮2次元、水平砲戦には適用できても3次元の対空砲は全然違います。このことは、教官は勿論、学習してきた候補生もよく承知していました。”高角砲は狙って直撃するのは困難。弾幕を張って確率に託すもの”ということを、肌で覚えました。白昼何故1機で飛来したのか。偵察目的だけか、編隊から外れて迷い込んだのか、候補生は知る由もありませんでした。
この少し前、候補生は館山砲術学校(館砲)で訓練合宿しました。横砲とは違い、ここは海軍陸戦隊のインキュベーター、座学・演習すべて陸戦一色です。山岡少佐(63期)創始の「山岡部隊」、これは米海兵隊のグリーンベレーを模したもので、一旦N45°Eと設定したら、山であれ、谷であれ、川でも密林でも、ひたすら目的地をめざすのです。候補生に演習の日程が届きました。では又次回で。